ダム統括管理システムの開発

- (一社)日本建設業連合会
- 前田建設工業(株)
- 白石 幸基
ダム工事の品質データ一元管理
1.はじめに
産業界では労働人口の減少が急速に進行しており,建設業界にも2024年度には改正労働基準法が適用されるなど,労働環境が著しく変化している.そのような状況の中,建設業における労働力不足の解消や生産性向上は極めて重要な課題となっている.
国土交通省においても「インフラ分野におけるDXの推進について」などが発表され,「i-Construction」の施策のもと,デジタル技術の活用を推進しており,建設業界でも急速にICTの活用が広がっている.
ダム現場は,原石山,骨材製造から本体を施工するダムサイトなど多岐にわたる施工箇所から構成されている.それぞれの場所では,コンクリートやCSG製造を行うためのダム用仮設プラント,骨材製造やコンクリート/CSG打設に伴う濁水処理設備,建設発生土処理場など様々な設備が設置されており,これらの施工箇所は物理的にも離れた位置に存在していることから,広域にわたる管理が必要となっている.
その状況の中,現状は各々の工事場所で各担当職員が施工管理を行ない,施工データを管理している.各施工箇所での計測データや成果物は現場事務所などに持ち帰り,指定のフォルダに保存することでデータの共有を行っている.また,各職員が現場での施工管理業務や,事務所での発注者対応業務等に忙殺されており,ダム工事現場において職員の生産性向上は喫緊の課題となっている.
これらの状況を踏まえて,現場各所から得られるデータを直接クラウド上に共有することができるデータプラットフォームとしてダム統括管理システムを開発した.
2.ダム統括管理システムの概要
ダム統括管理システムは,ダム工事現場単位でクラウドを利用したデータプラットフォームである.このシステムを利用することで,広域なダム現場の様々な情報を1つのシステムの中で事務所だけでなくダムサイトからでも入力・確認ができる.
また,現場内だけでなく,本支店,発注者などの工事関係者を繋げることが可能となる.施工管理データや現場映像等の同じ情報を関係者で常時共有することが可能となるため,リアルタイムでコミュニケーションを図ることができ,意思決定が迅速に行えるようになる.ダム統括管理システムの概要を図-1に示す.

ダム統括管理システムは多くの要素から構成される.本稿では「①ダッシュボード」,「②帳票自動作成システム」,「③施工管理システム(リフトスケジュール)」,「④センサーモニタリングシステム」,「⑤BIM/CIM」の5つの要素に関して説明する.
3.各システム詳細
3-1.ダッシュボード
ダッシュボードはダム統括管理システムにログインした際のトップページである.各システムと連携されており,ログインした際に工事進捗やスケジュール,気象情報などのデータが閲覧できることから,現場状況を一目で把握することができる.図-2にダッシュボードの構成を示す.ダッシュボードのメニューより所定のアプリを選択することで,各システムのダッシュボードでは表示していない詳細なデータを確認することができる.
従来の施工管理ではそれぞれのアプリケーションが独立しているため,各アプリケーションを起動し,ログインする必要があり,管理や検索に時間がかかっていた.しかし,ダッシュボードを基点として各システムへ移動することが可能となり,従来取られていた手間を省略することができる.
ダッシュボードに表示する内容は現場ごとでカスタムを可能としている.

3-2.帳票自動作成システム
職員の生産性向上を目的とし,「帳票自動作成システム」を開発した.従来は現場で取得した情報を紙野帳などに記録し,職員が事務所に戻ってデータをエクセル帳票などへ再度入力していた.また,各帳票には同じ入力項目も多くあり,それぞれの帳票を作成するタイミングでデータを都度再入力していた.ダム工事では,事務所と現場が遠い場合がほとんどであり,移動時間が大きく業務時間へ影響している.
本システムでは,打設管理データ,性状試験データ,圧縮強度試験データ等を,品質試験室や施工を行っている場所からスマートフォンやタブレットを用いて直接入力する.これにより,自動的に打設日報や圧縮強度試験表,数量集計表等にデータを反映でき,帳票の作成を簡略化することができる.これにより職員はデータ転記や,帳票へのデータ入力の手間がなくなり,帳票作成の時間を削減すことができ,生産性向上に寄与する.また,現場職員はいつでもブラウザ上で帳票類を確認でき,施工データをリアルタイムで共有できる.これにより今までは職員が事務所で帳票を作成してからしか得られなかった情報が,施工中に事務所にいる職員もリアルタイムに情報を取得することができる.
その結果,担当職員だけでなく現場全体で,施工状況・品質データを確認でき施工不良などを防ぐことができる.現場でのデータフローを図-3に示す.

3-3.施工管理システム
「施工管理システム」は「帳票自動作成システム」で作成された帳票と紐づいており,リフトスケジュールを起点として各ブロックの情報を閲覧することができる.システムのユーザーインターフェース(以下,UI)はダムのリフトスケジュールをベースに構築している.図-4にUIのイメージ図を示す.

従来のリフトスケジュールは打設の進捗確認や工程の見直し,打設数量の把握に活用されていた.帳票の管理についてはブロック・リフトごとでフォルダが作成され,フォルダ構成の階層が深くなるため必要なデータを検索するのに手間がかかる.そこで,本システムでは施工後に所定のブロック・リフトに「帳票自動作成システム」で作成された帳票が紐づくため,今までのリフトスケジュールの機能に加え,任意位置での打設日報や品質管理データを確認することができる.また,リフトスケジュールをUIとしているため,検索が簡易的になり,必要な情報を短時間で取得することができる.
さらに,従来は年単位,月単位など集計する期間に合わせて帳票をそれぞれ作成していたことから,任意期間でのデータ推移・関係性を確認するためには管理図も同時に作成する必要があった.その結果,帳票・管理図をまとめる際には任意期間のデータをPCのデスクトップ上に複数を立ち上げて作業していた.この方法では転記の回数が多く,入力ミスなども多くなる.
この問題を解決するために,本システムでは,施工場所の情報だけでなく,任意の期間,製造ライン,品質管理データの種類等を設定することで,必要な期間の帳票及び管理図を自動的に表示することができるような仕組みを構築した.複数のファイルを開くことなく,帳票作成ができるため,データを探す手間もなくなり,入力ミスなどを減らすことができる.
3-4.センサーモニタリングシステム
現場内は気象データや法面傾斜計,品質管理に関わるものなど多くのセンサーが設置されている.センサーモニタリングシステムでは,各センサーの情報を工事関係者が閲覧できるようになっている.ダム統括管理システムは現場内に設置している監視カメラとも連携しており,災害などの緊急時は,センサーとカメラの連携により,遠隔から現場状況を確認し,災害対応を迅速に行うことができる.
また,設置したセンサーの計測値をモニタリングすることで効率的な施工を可能とする.一例として,カーテングラウチングの施工では.図-5に示すようにグラウト材の注入圧,流量等の施工データをどこからでも確認できる.間隙水圧計のグラフで計器が反応した時間帯を選択すると,反応した計器に近い順にグラウチングの施工情報が配列される.従来は間隙水圧計の反応とグラウチング日報を1枚ずつ照合確認していたが,本システムを使用することで各情報の同時閲覧が可能になり,大幅に確認時間を削減することができる.

グラウトの施工では,図-5のグラフで反応が見られた間隙水圧計の計測値を図-6で示すように3次元モデルで確認できる.円柱の大きさは間隙水圧計の計測値を,色はグラウチングの工数を示しており,地山内での遮水性,施工箇所を視覚的に確認できるようになった.これにより,短時間で次施工へのフィードバックが可能になり,より確実なグラウチングの施工を効果的に行うことができる.

3-5.BIM/CIM
令和5年度より国土交通省により原則化されているBIM/CIM活用工事にも対応している.
BIM/CIMのモデルには,3次元モデルと属性情報が必要となる.属性情報は品質管理情報や施工情報などがあげられる.ダム統括管理システムでは,各システムで属性情報が集約され,モデルへの紐づけも可能としている.
一例として,打設終了後,「②帳票自動作成システム」によりデータが入力された箇所は,図-7に示すように打設日に応じて3次元モデルに着色され,リフトスケジュールと同様に進捗確認が可能となる.
3次元モデルを活用するには専用のソフトが必要となるが,専用ソフトの使用は,高スペックのPCが必要となり,使用できる人や導入できる組織が限定される.そこで,専用ソフトがない環境においてもブラウザ上にてモデルの確認,属性情報の閲覧が可能となるような仕組みを構築した.
今後はBIM/CIMモデルで,今まで2次元の図面では共有が難しかった部分への理解を深め,意思決定を円滑に進められるように活用していく.

4.おわりに
ダム統括管理システムを活用することで,従来は施工箇所ごとに管理されていた項目を一元管理することが可能となった.これにより,どこからでもデータの入力・作成・閲覧が可能となり,職員の作業時間を大幅に削減することができる.
今後は,各工種の施工データとの更なるシステム連携や,BIM/CIMとの連携を進め,システムの拡充に取り組む.さらに,現場全体での統括的なデータ共有を推進することにより,工事全体の品質・安全性および,生産性の向上を目指す.
参考文献
1)杉野 裕之1・森 芳樹1(1. 前田建設工業株式会社):ダム工事を一元管理するダム統括管理システムの開発,北陸地方建設事業推進協議会 令和5年度「建設技術報告会」
2)古川 無何有1・中島 秀樹1・石黒 健1・相田 真也2 (1. 前田建設工業株式会社、2. 新潟県):カーテングラウチング施工時の岩盤内間隙水圧応答に基づく遮水性の原位置評価の試み,令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会
●問い合わせ先前田建設工業株式会社 土木事業本部 土木技術部 TEL 03(5276)5166 |