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2025.07.30
技術レポート

中部縦貫自動車道 大野油坂道路 此の木谷橋下部他工事の施工報告

豪雪地帯における橋脚下部工での工程、安全確保の取組み

現在整備が進められている中部縦貫自動車道は、長野県松本市を起点とし福井県福井市に至る約160kmの高規格幹線道路です。本報告では、その福井県域の一区間である大野油坂道路の九頭竜湖内に位置する此の木谷橋下部他工事にて取り組んだ、豪雪地帯での工程管理、安全確保の工夫について報告する。

1.はじめに

本事業中部縦貫自動車道は、広域交通の円滑化を図り、高速道路ネットワークの形成、安定した交通の確保、地域経済の活性化、医療活動への支援等を目的とした道路である。此の木谷橋下部工他工事はその一環として、大野油坂道路にかかる此の木谷橋の橋脚下部工の施工を行ったものである。(図-1)本稿は、鋼殻据付時の安全性の確保および、豪雪地域における工期短縮について報告する。

2.工事概要

本工事は、此の木谷川にニューマチックケーソン工法にて橋脚1基(図-2)を築造する工事であり、概要は以下の通りである。

工事件名:大野油坂道路此の木谷橋下部他工事

発 注 者:国土交通省 近畿地方整備局

工事場所:福井県大野市大谷地先

工  期:H31.3.19~R4.3.31

主要工種:進入路工、仮桟橋工、橋脚躯体工、 ニューマチックケーソン基礎工

ニューマチックケーソン基礎工の概要は以下の通りである。

基礎形状:矩形 15.0m×16.0m×7.5m

橋脚形状:矩形 7.5m×5.0m×33.3m(中空)

掘削面積:238.0m2  

掘削深さ:11.258m

掘削土量:2680m3  

最大気圧:0.34MPa

3.施工上の課題

本工事は、ダム湖上での施工ということから常に桟橋上からのアプローチとなり、高所での作業が多々発生することから、安全性の確保が課題であった。(図-4、写真-1)また、施工場所である福井県大野市は、特別豪雪地帯に指定されるほど雪が多く、施工期間中には一晩に50㎝ほどの雪が積もることもあった。このような自然条件下でのニューマチックケーソンの掘削、及び構築を工期内に施工完了させることも課題であった。

3.1鋼殻吊降し時の安全性の確保

 当初設計では、施工時水位より25.0m高い桟橋上に設置した鋼殻組立架台上にて鋼殻を組み立て、組みあがった鋼殻を吊上げ、水面まで吊下ろす計画であった。しかし、この状態で鋼殻組立作業を行うと、鋼殻組立架台から水面までの距離が27.0mと大きく、常に高所作業となるため、墜落の危険性が懸念された。(図-5)

また吊上げ・吊降し時のジャッキ操作を行う位置では、水面まで42.0mとなるため、ジャッキ操作時の姿勢の安定、ロッド脱着時の作業床の設置等、安全性の確保が困難と考えられた。

3.2 豪雪地域での施工上の課題

施工箇所である福井県大野市は周囲にスキー場が何箇所もある特別豪雪地帯であることにより、積雪および除雪作業による工程の遅延が懸念された。実際、桟橋設置作業中に一晩で50cm以上の積雪が10回以上発生した。(写真-2)その都度、進入路から施工ヤード資材置場の除雪を行ったが、毎回3時間ほどの時間を要し、作業効率が60%程度と工程を圧迫する状況であった。躯体構築時に50cm以上の積雪があると、作業開始時に足場内部及び躯体内部の除雪作業が発生し、また足元が滑りやすい状況での作業となるため、作業効率は桟橋施工時よりもさらに低下する恐れがあるため対策を講じる必要性があった。

4. 課題に対する対応策

4.1 鋼殻吊降し時の安全性の確保

鋼殻組立・吊降し作業時の高所作業を低減する安全対策として、鋼殻組立ステージ設置による施工方法から作業台船による施工方法に変更した。(図-6)作業台船は、L:9.0m、W:2.5m、H:2.0mのものを14隻使用し、組み合わせることによって、17.5m×18.0mのフラットなヤードを水上に設けた。作業台船の浮力は1隻当たり25tあり、14隻合わせると350tの浮力がある。鋼殻、鋼殻組立足場、鉄筋の重量を合わせても約260tしかなく、90t近い余力を持っていたため非常に安定した状態での作業を行うことができた。作業台船を使用する事により、鋼殻組立作業時の高所作業はなくなり安全性を確保できた。(写真-3)

また、鋼殻吊降し架台も直接桟橋上に設置したことにより支保工の組立作業をなくすとともに、吊降し時のジャッキ操作を支保工高さ12m分低い位置で行うことができ、安定した状態での施工が可能となった。(写真-4)

吊上げ吊降しの距離に関しても、当初設計では1.0m吊上げ、28.0m吊降ろす計画であったが、水面上の作業台船からの吊上げを行うことにより台船の喫水分2.0mの吊上げと2.0mの吊降しとなり、吊降し距離を26.0m削減することができた。(図-7)吊降し距離が短くなることによって高所での作業時間の短縮を行うことができ、高所作業における墜落のリスク回避に繋がった。

4.2 豪雪地域での工程短縮

躯体構築時の積雪による工程遅延対策として、躯体及び足場を覆うように屋根をかけて養生を行った。(写真-5、6、7)足場周囲は養生ネットからシートに変更し、横方向からの雪の吹き込みを遮断した。屋根を設置する事によって作業開始・終了時の手間は増えたが、除雪に要する時間を削減することができた。

また、足場の内側にはジェットファーネス、ジェットヒーターを設置して、内部の温度を上げることにより、足場や躯体の凍結防止を行った。(写真-8)外気温が氷点下の時でも足場の囲いの中では10℃程度の養生必要温度を確保できたため(写真-9)、構築作業の工程ロスを抑えることができ、ほぼ予定通りに施工を進めることができた。作業中においても、足場及び資材・工具等の凍結もなく、スムーズに足場内での移動および作業を行うことができ、積雪による影響を低減することができた。

5.おわりに

今回の工事において課題となったのが、現場条件にいかに対応していくかということであった。計画段階において条件の洗い出しを行い、対応策を用意しておくことがいかに重要であるかを再認識した。また、同種条件での後発工事においても同様の施工提案を行い、無事工事を終えることができた。このことは、対策案が有効であることを証明したと考えられる。

最後に、本工事の計画段階からご協力いただいた関係者の方々に感謝の意を表する。

●問い合わせ先大豊建設株式会社 土木本部 土木技術部TEL ( 03 )3297 ― 7010
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