低温時のひび割れ抑制効果に優れた プラントミックス型改質アスファルト混合物

- (一社)日本道路建設業協会
- 大成ロテック株式会社
- 青木 政樹
小規模補修に適したひび割れ抑制舗装材
近年リフレクションクラック対策工法として、優れたたわみ追従性、応力緩和性を有する特殊アスファルト混合物(高たわみ性混合物)の適用例が報告されている。
高たわみ性混合物にはプレミックス型の特殊アスファルトが用いられているため、少量製造が困難な場合があり、小規模・緊急工事への対応が難しいという課題があった。
そこで、合材工場で製造時に特殊添加材を添加・混合することで、低温時でも優れたたわみ追従性・応力緩和性を発揮するプラントミックス型改質アスファルト混合物を開発し、積雪寒冷地にて適用した事例について報告する。
1.はじめに
リフレクションクラック抑制工法としては、じょく層工法やシート工法が用いられてきたが、最近ではたわみ追従性の大きいアスファルト混合物(高たわみ性混合物)の適用例が報告されている。1)2)
当社が開発した高たわみ性混合物は、2003年に大型車が通行する一般国道において試験施工を実施し、18年目の追跡調査においてもリフレクションクラック抑制効果やひび割れ抵抗性が他のポリマー改質アスファルトⅡ型(以下、改質Ⅱ型アスファルトと称す)工区と比較し、顕著であり、長期供用性に優位性があることを確認している3)。
一方で、高たわみ性混合物には一般的にプレミックス型の改質アスファルトが用いられており、合材工場へローリー運搬する必要があるため、使用量の少ない小規模工事や緊急工事への対応が難しいという課題があった。
今回紹介するプラントミックス型改質アスファルト混合物は、合材工場で混合物を製造する際に、低温時のひび割れ抑制効果に優れたプラントミックス型改質添加材(以下、プラントミックス型改質添加材と称す)を添加・混合することで、優れたたわみ追従性・応力緩和性を発揮する混合物が製造できる。そのため、従来のプレミックス型アスファルトの課題であった小規模・緊急工事への対応が可能となる。
本報では、プラントミックス型改質添加材の概要および、それを用いたプラントミックス型改質アスファルトの性状例、ひび割れ抑制効果を高めたプラントミックス型改質アスファルト混合物の性状例および適用事例を紹介する。
2.プラントミックス型改質添加材の概要
プラントミックス型改質添加材は、改質Ⅱ型アスファルトにたわみ追従性、応力緩和性を付与させる樹脂であり、ゲル状で非常に粘性が高く、混合物製造時における投入作業時や保管時に固着するため、その取扱い方法が難しかった。そこで、プラントミックス型改質添加材を熱溶融する粘性の低い樹脂で包む技術を用いることで、プラントでの投入や保管が容易となり、製造時における混合性と分散性に優れるプラントミックス材として実用化するに至った。
プラントミックス型改質添加材は、写真-1 に示す外観・形状を有しており、小分けや可搬性に優れた形状とすることで投入作業や計量作業を効率的に行うことができ、プラント施設における作業性を向上させた。

3.プラントミックス型改質アスファルトの性状例
プラントミックス型改質アスファルトは、改質Ⅱ型アスファルトにプラントミックス型改質添加材を加えたものである。アスファルトの性状例を表-1に示す。
表-1より、プラントミックス型はプレミックス型と類似の性状を示しており、改質Ⅱ型アスファルトと比較して以下に示す特徴を有していることが分かる。
➢アスファルトの感温性を示す針入度指数PI が大きく、低温時と高温時の性能の変化が少ない。
➢60℃粘度が大きく、ポリマー改質Ⅱ型アスファルトと同等のわだち掘れ抑制効果が得られる。
➢フラース脆化点、曲げひずみ、|G*|sinδの値から、低温時のひび割れや疲労ひび割れの発生抑制が期待できる。

4.室内試験によるアスファルト混合物性状の評価
本報では、アスファルト貯蔵タンクの制限があり、改質Ⅱ型アスファルトをタンクに常備していない合材工場を想定して室内試験を実施した。まず、ストレートアスファルトに一般的な改質添加材を混合し、改質Ⅱ型相当にアップグレードした後、前項で紹介したプラントミックス型改質添加材を添加することで、たわみ追従性、応力緩和性に優れたプラントミックス型改質アスファルト混合物となる。
プラントミックス型改質添加材を用いたアスファルト混合物は、通常の場合と同様の手順(舗装施工便覧4))で配合設計を実施することが可能である。プラントミックス型改質アスファルトを使用して表-2に示す粒度とアスファルト量で寒冷地を想定した一般的な密粒度混合物(13F)の混合物性状を室内試験で確認した。

評価項目は、(1)低温域のひび割れ抵抗性、(2)疲労抵抗性、(3)塑性変形抵抗性とした。以下にそれぞれの試験概要及び試験結果について示す。
(1)低温域のひび割れ抵抗性
曲げ試験による脆化点と曲げひずみの関係から、低温域のひび割れ抵抗性を評価した。曲げ試験の試験条件を表-3に、曲げ強度の試験結果を図-1、試験温度と曲げひずみの関係を図-2に示す。

図-1から、アスファルト混合物の脆化点温度は、改質Ⅱ型混合物が5℃であるのに対し、プラントミックス型混合物は-10℃、プレミックス型混合物は-15℃以下となった。
高たわみ性混合物は、改質Ⅱ型混合物と比較した場合、脆化点が低温側に15℃以上スライドしており、低温側の広い温度領域でも粘性を有している。

また、図-2より、改質Ⅱ型の脆化点より低い(0℃、-5℃)温度での曲げひずみが、改質Ⅱ型混合物と比較して、プレミックス型、プラントミックス型混合物ともに2倍以上大きな傾向を示した。このことから、プラントミックス型はプレミックス型の性状に近く、改質Ⅱ型アスファルトと比較して、低温域でも粘性を有しており、たわみ追従性に優れていることが確認できた。

(2)疲労抵抗性の評価
疲労によるひび割れ抵抗性の評価として曲げ疲労試験を行った。
曲げ疲労試験の試験条件を表-4に、試験結果を図-3に示す。混合物の疲労破壊回数は、プラントミックス型混合物が77万回であり、改質Ⅱ型混合物の1.4万回と比較し、50 倍以上のひび割れ抵抗性を有していることが確認できた。また、プレミックス型混合物は83万回であり、プラントミックス型より若干大きくなるものの大きな差は見られなかった。


(3)塑性変形抵抗性の評価
塑性変形抵抗性の評価としてホイールトラッキング試験を実施し、動的安定度を確認した。プラントミックス型、プレミックス型、改質Ⅱ型混合物いずれの動的安定度も6,000 回/mm 以上となり、全ての混合物について、十分な耐流動性を有していることが確認できた。
5.実機による混合物性状の評価
合材工場による実機試験練りでは、室内同様、工場に常備しているストレートアスファルトに一般的な改質添加材を混合し、改質Ⅱ型相当とした後、プラントミックス型改質添加材を投入・混合した。ストレートアスファルトをベースとすることで、改質アスファルトを常備していない工場での製造が可能となる。
混合物性状の評価は、疲労抵抗性と塑性変形抵抗性によって確認した。実機での混合物製造フローを図-4に示す。
本検討では2種類の添加材をプラントミックスするため、混合物の製造時間は205秒となり、一般的な混合物の混合時間(45~60秒程度)よりも時間を要したが、練り落とした混合物を目視で確認したところ、材料分離や混合ムラなどはなく混合性は良好であった。

試験練りで製造した混合物による曲げ疲労試験結果を図-5に示す。プラントミックス型改質アスファルト混合物の疲労破壊回数は、室内で確認した77万回に対し、実機で製造した場合は100万回以上(試験は100万回で終了)の結果が得られた。
塑性変形抵抗性は、動的安定度で6,000 回/mm 以上となり、疲労破壊回数、動的安定度とも室内混合物と同等以上の性状であることを確認した。

6.適用事例
当社では、2019年より低温時のひび割れ抑制効果に優れたプラントミックス型アスファルト混合物の製造を行っており、改質Ⅱ型アスファルトをタンク貯蔵していない合材工場においても製造を行っている。また、プラントミックス型のメリットである少量出荷にも対応しており、混合物使用量が20t程度の実績も有している。
表-5に石川県金沢市内の県道においてプラントミックス型改質アスファルト混合物を施工した概要を示す。

また、施工直後および施工2年後の状況を写真-2、3に示す。
写真中の赤色破線内部が当該混合物である。施工2年後の調査においても、わだち掘れやひび割れは確認されず、良好な状態を維持している。


7.まとめ
優れたたわみ追従性、応力緩和性により、ひび割れ抑制効果を有する高たわみ性混合物に関して、小規模工事や緊急工事などへの対応が可能なプラントミックス型改質添加材を用いて室内や合材工場で製造した場合の各種性状を評価した。その結果、従来のプレミックス型と同等以上の性能を示し、実機での混合性も良好であることを確認した。また、石川県金沢市の県道にて適用し、施工後の調査において良好な状態を維持していることを確認した。
当該プラントミックス型改質添加材は、製造設備の利用に制限がある工場や少量出荷などの現場への対応が可能であり、汎用性が高い材料である。今後は、アスファルト舗装の長寿命化に寄与する技術として、プレミックス型の改質アスファルト混合物とともに更なる普及を図っていく所存である。
【参考文献】
1)紺野路登,野中圭,武藤一伸:耐流動性と疲労抵抗性・ 応力緩和性に優れた特殊改質アスファルト混合物の供用性,ASPHALT,Vol.61 No.234,pp35~39(2018 年)
2)紺野路登,大友信之:アスファルト舗装の長寿命化の実現へ向けた検討,舗装,54-2,pp13~17(2019)
3)唐木健次,木澤愼一,岡島穂高:ひび割れ抵抗性に優れた特殊改質アスファルト混合物の長期供用性,第34回日本道路会議
4)(公社)日本道路協会:舗装施工便覧(平成18年版) pp95~104(2006年2月)
●問い合わせ先 大成ロテック株式会社 技術本部技術研究所 鴻巣研究所長 青木政樹 |